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旅は冒険に満ちすぎる・インドネシア孤島の旅(8)


バンガローの部屋は午前中、私がいなくなるとハウスキーピングが入って掃除をしているらしい。部屋に戻ると充満した蚊取り線香の煙と、糊の効いたベッドシーツ、ピンク色のトイレットペーパーが新しいものに取り換えられているからすぐわかる。 

トイレットペーパーは不思議だった。1日にそれほど使うわけでもないのに、翌日には必ず新しいロールに替えられている。無駄だ。あるいは、軽く横領の気配もする。ま、そんなことは私にとってはどうだってよいことだが。 

それより困るのは蚊取線香だ。これが部屋に充満するとひどく目まいがした。
レストランでオーストラリア人夫婦にこのことを話すと、「オー! あなたの前世は蚊だったのかもよ」とジョークに思われた。マジだっちゅーに。すっかり顔見知りになったレストランのボーイたちも「ニャムック(蚊)?」といって腹を抱えて笑っている。

いや、冗談じゃないんだと真剣に言うと、彼らはうーんと考え込む。蚊取線香で目まいがするなんて聞いたことがないけど、でも、マラリアにかかるよりマシだよ。このあたりはマラリアの罹患率が高く、それだけは注意が必要だということらしい。 
めまいも嫌だがマラリアも嫌だ。すんごいストレスだ。

広い空一体が層積雲に覆われていて、レストランの軒先に吊ったスチールチャイムが涼しげな音で切れ目なく鳴っている。ギリメノの海は、曇っていてもなお透明度は失われず、抜けるような薄青になってますます広く見える。 

レストランでいつものスープと、パッサパサのトーストを食べながら日本の友人にカードをしたためる。 が、郵便物は私がロンボクに引き返す船といっしょに運ばれるという。
何日先なんだよ
いちいち頭にくる。楽園で短気になっている自分を自覚する。
っていうか、こんな美しい楽園でも、自分、短気になれるんだ。という驚愕。

ロンボクのあの島の原始的状況で、郵便局が機能しているのだろうか?と甚だ疑問に感じる。仕方ないので帰りにスラバヤで投函しようとため息をつく。

ボーイが運んできたコピ(コーヒーのことをこう呼ぶ)を飲みながら、
ぼんやり海を眺めて過ごす。 
もう早々に、やることがない。

都会とリゾートの時間の流れはまったく違う。ゆっくり。時間がありすぎる。 
なんだか、ハエと蚊がやたらと多い。
滞在日数と共に増えてきた感じがする。

こんな所に来て、気にしていてもしょうがないんだが、
もう、気になって気になってしょうがないレベルだ。  

そんなこんなで数日経ったが、
辺境でも予期せぬ状況が出てくる。突拍子もない危機的な状況が。 

ある日、朝一番にレストランで聞いたのは
「イランイラク戦争勃発」の知らせだった。 


来るわけないとたかをくくっていたことが、こんな辺境でガチで来た驚愕。 だ。


「あなたも母国のニュースを聞いた方がいい」と、
後ろに座った旅人がラジオを押し付けてくる。 何人だろう。わからん。

チューニングを合わせると、
直線的な日本語のアナウンスが聞こえてくる。

よし、これか。 

日本は多国籍軍に協力すると言っているようだ。参戦? いや、資金援助?。
非常に曖昧だ。 イスラム圏では暴動が起きることも十分予想されると言っている。
日本人の帰国が相次いで始まったと。 

 へぇえええ・・・ インドネシアからも帰国が相次ぐとね・・・


この時点で、私にはどうすることもできない。

島からロンボクに向かうにはボートしかない。
その舟はさっき出たばかりで、次の出航は3日後だ。

戦争が始まってしまった。

私は波打ち際にへたり込んで、
アダンのオレンジ色に熟した実に横走りするカニを見つめてめそめそ泣いた。


そして、そんな自分に思いっきり大声でツッコミを入れた。


おまえは石川啄木の俳句か!!


in楽園


そして、どんどん思考崩壊へ。


つづく
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