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旅は冒険に満ちすぎる。インドネシア孤島編(5)


ロンボク行きの船は両端に木組みのバランサーがついた、アメンボみたいなボロい舟だった。 アメンボを砂浜に目一杯引き上げて「さぁ乗ってくれぃ」とボートの上でジモティの船頭が手を貸してくれるのだが、打ち寄せる波に足をすくわれる。
浜に見物に来た子供らにゲラゲラ笑われながらやっと這い上がることができた。
たくし上げたジーパンは波でびしょびしょ、靴はぐちゃぐちゃだ。ま、いっか。

子供たちは出航と同時にみんなで一斉に船を押し出す。見物に来ていたわけではなく、あれでも小遣い稼ぎの仕事をしていたようだ。 

沖に出ると視界は見渡す限り薄水色の水平線。島影はまったく見えなくなった。 
ポンポンポンという頼りないエンジン音だけが聞こえる。 
ギリメノまでは40分ぐらいだというが、行けども行けども島が見えない。 
しばらくすると海のど真ん中で船のエンジンが止まってしまい、おかしいなぁ、どうしたんだよと修理するインドネシアの船頭を呆然と見つめる。
どうすることもできない。
私とオーストラリア人夫婦3人は、ぼんやり洋上で漂うことになった。 

エンジン音が止むと音のない世界。 
海なのに、波の音すら聞こえない。 
アメンボボートに打ち付けるさざなみが、時折チャポーン、バチャーンと音をたて、
船がギギーと軋む。
こういうとき何を考えればいいのかわからない。 
頭の中も停止状態だ。 

ボートのへりから身を乗り出して海底を覗くと、
はるか海底の白州に舟の影がくっきりと映っている。 

当時この海の透明度は60メートル以上あった。
それを、生まれて初めて肉眼で確かめた瞬間だ。 
まるで舟に乗って空を飛んでいるようだ。 

いつまでたっても修理は終わらない。
海面はべた凪状態で、舟は幸い流されることなく、いつまでもそこにとどまっていた。 
海面が七色に見える。
太陽が雲に隠れたり顔を出したりを繰り返すたびに、
海面はエメラルド色に、サファイヤブルーに、薄鼠色にめまぐるしく色を変える。 

遠く水平線の向こうに積乱雲があり、雷の音がする。 
黒い雲の中に稲妻が光るのが科学の実験でも見ているようにはっきりと肉眼でわかる。 
そのはるか東にはスコールがシャワーカーテンみたいにうねった雲がある。

見て、青珊瑚よ、とオーストラリア人のカレンが言う。 
見ると、まさにその周辺はまるで青い絵の具を溶かし込んだようなブルーだ。 
夏用入浴剤を入れた風呂そっくりの色だ。   
目的地を前にぐったりするような美しさだ。ここは楽園すぎる。 

しかし、あぁ、修理にはあとどのくらいかかるんだろう。 
ほぼ2時間後に船が頼りなく動き出し、すみませんともお待たせしましたとも言わぬ船頭にインドネシア魂をかいま見つつ、30分ほどで目指すギリメノに到着する。 

乗ったときと同じように砂浜まで舟をせりあげて、打ち寄せる波の中に飛び降りる。 
弓なりに白い砂浜が続いている。 
ヤシ林が風に吹かれてざわざわと音を立て、浜辺にはアダンの木がオレンジ色の実を
地面に落とし、太い根を這わせている。


つづく
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