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難アリ オールウェイズ ベトナムの夕陽(21)

穏やかすぎて流れてもいないように見える川。 
ぷっかり浮いた舟。 
遠くに連なる青い山。 
煙のようにうっすらと浮かんだままの雲。 

フエの風景は平和である。 
時間が止まっているように見える。
ばっさり言えば、ホーチミンの喧噪とは正反対の「非常に眠い」景色だ。  


ホテルのロビーはとりあえず広い。
しかし、部屋といい外観といい、何ともいえない中華な配色がきにかかる。
部屋はめちゃくちゃ狭い。
備え付けの正方形の冷蔵庫とベッドだけで、部屋はぎゅうぎゅうだ。

ベッドサイドに緑の果物が置いてある。

部屋に入って呆然としていると、誰かがノックする。 
ドアを開けると、ホテルのおばちゃんがニカニカ笑いながら魔法瓶を持ってくる。
飲料水か。その魔法瓶に思わず目を奪われる。 花束の絵のついた昭和初期チックなホーローの魔法瓶である。 

おばちゃんは、なんちゃらかんちゃら、ほにゃほにゃと現地語で何ごとか喋るだけ喋って、バイバイと出ていった。 困った。。。ぜんぜん聞き取れなかった。 理解不能である。

魔法瓶の中身を覗くと「白濁した湯」が入っている。 
コップに入れてみると、熱湯ではなく、人肌にぬるい白い水だ。 何なんだろう。怖すぎて手がつけられない。 

何か飲むものはないかと冷蔵庫をあけて更に驚く。 中には、腐食してプルタブがとれた錆びた缶コーラが一個転がっていた。 うっわー。なんじゃこりゃ。。。 
まさかそんなことはないだろうが、ベトナム戦争の遺物のようで震えあがる。 時の止まった冷蔵庫。 こうなると、何もない。 

皿の上の果物を眺めて、少し前に食べたシュガーアップルだとわかる。 
でも、カットしてないし、どうやって食べるんだろう?(食べ物か飾りかわからないのに、食べ物と考えた時点で失敗だったのだが。。。) 

その後、レストランで軽く昼食をとり、持参した水筒にお茶を入れてもらう。 
錆びた缶コーラを見て以来、私は徹底して厨房にお茶をもらいに行った。

午後は延々と理解不能なベトナム英語のガイドの話に何度も「何だって?何ていいました?」を繰り返し、もうわかんねーからいいや、と皆押し黙ったりして、ガイドも私たちもお互いに困惑しながらのツアーになった。 全員がストレス右肩上がりだ。 

この街はどこもかしこも建物は灰色でぼろぼろだが、時々、中国の影響を受けた黄色やピンクの建物があって目が覚める。たいがい店屋のような気がするが、何屋さんなんだろうなぁ、ちょっと止まって写真撮らしてくれないかなぁと思うが、このガイドは言っても聞かないし、徹底的に融通がきかなかった。たまらんなぁ。 

紫禁城、チャム美術館。縁もゆかりもない人ん家の遺跡ばかり見せられてもううんざりしてしまった。いったいアンコールワットから何日何ヶ所遺跡回ってんだよ。。。と怒りがこみあげてくる。 

ぶっちゃけ、本当につまらなかった。 チャ厶美術館のなんだか焼物の釜の中みたいな空気感。 単純に言えば、アンコールワットなどを見た後でここを見ると、素人目にもここの彫刻のざっくり大味な感じは、手抜きのようで辟易する。 

それもそのはず。ここにあるのはミーソン遺跡のチャンパー(墓)から出土された石像や石碑、遺跡の破片などだが、これを発掘したのはちゃっかりもののフランス人研究者で、歴史的に価値の高い物はすべて自国のルーブル美術館に持っていったのである。 当然、残りものがずらずら並べられているわけで。きちんと整理されているわけでもなく、よくわからない。 それだけでもテンション下がる。だったら本格的にミーソンに連れてってよ、と言いたくなるわけで、そのあたりの不満のオーラだけは敏感に感じ取るガイド氏は非常に不服そうな顔をして 「どうしてあなたは、ここがそんなにおもしろくないと思うのか?!」と言ってきた。 

そんなこと言ったって、好みじゃないんだからしょうがないじゃん。  ムッとしていたら、じつによいタイミングで妹が私の態度に口をはさんできた。 

「あのね、こういう旅でさ、何もそんなに不機嫌な顔をしなくてもいいじゃん、気分悪い」 

「はぁあ? 何だってぇえ? 」ということで、これが俗に言う火に油を注ぐという行為の典型。 誰もいないチャ厶美術館で急激に姉妹ゲンカが勃発した。

妹は私にもう少し協調性をもってにこやかに巡れよ、と、ごもっともなことを言うが、 私は遺跡遺跡と朝っぱらから日々連チャンでこんなにつまんないものを見せられて、目が灰色になっていたのである。

我慢に我慢を重ねて、フエなんか大嫌いになっていたので 「じゃあおまえ一生フエにいればいい! フエに住め! フエ人になれ」と妹に毒を吐き、我ながら大人げないと自己嫌悪に陥りつつも、絶対に後には引けない所まで追いつめられていた。 呆然とするベトナムのおっさん。いがみあう姉妹を見かねた編集者が仲裁に入る。 「わかったわかったふたりとももうやめろ。お姉ちゃんはあと一ヶ所遺跡につきあえばホテルに帰って良し!」 あと一ヶ所も遺跡に行かねばならないと思うと、暴れたくなったが、なんとか深呼吸して承諾した。 

最後に行った何かの城だった。残念ながら名前も覚えていない。取材メモさえも取る気が失せていたのである。 

広い中庭には等身大の傭兵像(カイリーン・モスリムの像)ががずらりと並んでいた。 意外とよくできていた。リアルな等身大の兵隊像で、敵をひるませたのである。そっと像に手を触れると日光にさらされ、体温みたいに温かかい。「あんただけだよ、何も言わず私のことをわかってくれるのは」という気持ちになる。 

昔、人々はこの庭に巨大なバスタブのような置物を作り、そこに水を張って、それが玉のパワーによって温められると信じていたという。

しかしここは陽射しがとても強い。これだけ強ければ別に玉のパワーに関係なく水も十分温もるだろうとは思うが、ベトナム英語で言っている意味がよくわからないガイドなので、この解釈が合っているかどうかは曖昧だ。まぁ、いまで言うパワースポットの走りなのかもしれないどこかわかんないけど、ここはおすすめです)

さて、癒されて心の落着きが少しもどったはいいが、
その後、このキテレツなホテルで
皆がそれぞれ、眠れない夜を過ごすことになる。


つづく

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