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難アリ オールウェイズ ベトナムの夕陽(9)

黒婆山から更に暴走1時間。
ようやくたどり着いた「カオダイ教総本山」はまるで原色テーマパークのようなギョッとするたたずまいだった。

どピンクのねじり棒みたいな門をくぐる。ギアがまず教会に先に入って行き、内部をちょっと見せてやってほしいと誰かに頼んでいる。やがて白いアオザイ風の裾長シャツに白いパンツ、白いラビ風の帽子をかぶった老人が、ギアの隣から私たちを覗いて、「どうぞこちらに」と手招きしている。

編集者は私をヒジで小突いて
「おまえさぁ、変なところに来ちゃったんじゃねえのかぁ!?と囁く。

図星だ

正直、ギアがいなければ、私は激しく動揺していただろう。ここはあちこちヤバ過ぎる。
えらく奇妙な新興宗教テイストがぷんぷんしている。

妹が「あー、やっちゃったねぇとつぶやく。

そんなの私がいちばんわかっている。痛感しとるわ! 

梅津かずおのマンガそっくりの巨大な目玉の絵が、窓に大描きされている。。。
カオダイ教のシンボルマークらしい。。。

巨大聖堂に入ると、三角形の中から巨大な神の片目がこちらを覗いているオブジェがてんこもりだ。

「怖っ。「まことちゃん」みたいだ!」と思う。
この目はカオダイ教で「宇宙の神」を表すシンボルだそうだ。。。

カオダイ教の神様観はとにかく変わっている。

ここでは、キリストもブッダもアラーも、小説家のビクトル・ユーゴーも、ありとあらゆるものが神と崇拝され、「神は宇宙、宇宙は神」という、目が回りそうな世界観を持っている。

祭壇には、巨大な宇宙を表した直径3メートルもの瑠璃色の宇宙義があり、その真ん中にはやはりあの「神の片目(まことちゃんの目)」がぎょろりと覗いている。ひどくシュールで皆無言になってしまった。

祈りが始まるらしい。信者らしきアオザイ軍団が入ってくる。二階の手すりからホールを眺めているうちに目まいがしてきた。

私に地図まで描いてくれたアランが「面白いから絶対見てきて」と言ったのはなぜだ!。

なぜなんだアラン!!てめー、この野郎!。。。

信者たちがおごそかに入って来て礼拝する。
宇宙の神があちこちから片目で覗いている。ぞっとするようなこの違和感は何だ? 

妹は苦虫をかみつぶしたような顔で
「なんか怖いよ! もうここは嫌だ」とぶうたれる。
「あーあ、こんな遠くまで来ておまえこれが見たかったわけ?」と編集者が痛烈な皮肉を言う。ギアも明らかに嫌がっている。完全に私の負けだ。
もうたくさんだ。帰ろう、帰りましょう! 私たちは逃げるように祈りの世界を立ち去った。渾沌としたベトナムの新興宗教、原色のぎらぎら宇宙の巨大な神が片目で私たちをいつまでも見ていた。

門から車が出るなり、車の中でこぜりあいになった。

編集者は「おまえな、ここの記事は絶対NGだからな!書けねーぞ!わかってんだろうな!
と言う。わかってますよっつーの! 今更アランを恨んでも仕方ない。6時間近くかけてたどり着いた場所の取材が徒労に終わったことに私はすさまじく凹んだ。

タイニン地区はカオダイ教総本山の建物だけが周囲の地味な農村地帯から派手に浮いていて、他は本当に何もないど田舎である。

昼食はこんな遠くまで来ちゃったので、急遽道路沿いの大衆食堂に入るという。
店には壁も窓もなく、道路に向かって完全なオープンエアの掘っ立て小屋にテーブルを置いただけの食堂で、私たちは思わず「ここ大丈夫かよ」と身構えるほどである。
私たち日本人だけでは、とうていビビって絶対に入ることはできない。まさにジモティによる、ジモティのための食堂であった。

ギアがいてくれて良かったと思うと同時に
「こんなところで食べて腹を壊したりしないだろうか」という猜疑心にとらわれる。
「おい、大丈夫かよここは!」「知らないよ!」と私たちのひそひそ声の小競り合いが続く。最期はもう、火が通っていれば何とかなるさと開き直りの境地に至った。
ギアを信じるか信じないか、行き着くところはその一点である。

全員一致で「ギアを信じる」ことで話がまとまった。どうにでもなれ。店にはメニューもない。 厨房から皺だらけのお婆が私たちのことを何か珍しい生き物でも見るように、目を真ん丸にして見つめている。

店の奥にはそこの孫たちなのか、中学生ぐらいの華奢な女の子が二人、これもまた珍しい生き物を見る感じでのぞき込んでいる。

「ハイ!」と挨拶をすると、消え入りそうな声で挨拶を返し、二人顔を見合わせて店の奥に引っ込んだ。キャッキャと笑う楽しげな声が聞こえてくる。

「何が食べたいでちゅか?」とギアが笑顔で聞く。

私たちはベトナムの「温かい麺」が食べたい旨を伝え、あとはギアにまかせることにした。ギアは「わかりまちた!」と言って店のおばちゃんに話している。ベトナム語の会話。コーとかカーとかホーとかそんな音声だ。私にはまったくわからないが、そこには確かに普通の生活があるのだなぁと妙に見入ってしまう。


そして出てきた謎肉のてんぷら。。。(焦


つづく

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